脱毛症X
一般
「ポメラニアン脱毛」「偽クッシング」「Alopecia X」等と呼ばれている脱毛症です。好発犬種筆頭はポメラニアンで、この他、ハスキー、サモエド、トイプードル等で好発します。国内では、シェットランドーシープドッグにおいても散見されます。
原因は、不明ですが、成長ホルモン、副腎ホルモン、男性ホルモン、または、ホルモンバランスの不均衡等とささやかれています。
中年期以後のオスに多発しますが、メスもなります。
炎症や痒みはありませんが進行性に脱毛します。体幹部の毛が抜け、頭部と足先の毛は残ります。脱毛までいたらなくても昨年短く切った毛が全く伸びてこないことで疑われるケースも多いです。しっかりとした毛質がふわふわと子犬のように逆戻りしている場合も警戒する必要があります。
無治療でも寿命等には影響しませんが、毛並み豊かでふわふわだった子が地肌あらわに寂しくなっていく様に飼い主様はおおいに悩まれております。脱毛部の皮膚が黒ずんでしまった子では、治療に対し抵抗をしますので、そのような色素沈着が始める前に治療をお始めになることをおすすめいたします。
現在行われている治療法
現在よく行われている治療法には、トリスロタン、去勢手術、メラトニンがあります。以下にそれぞの問題点を挙げます。
トリスロタン
副腎ステロイドホルモンの合成阻害薬です。治療に対する反応率は、70〜85%ともいわれています。発売当初は、医原性副腎皮質機能低下症をおこさないよう定期的な副腎皮質の機能検査を要すとされていましたが、当院での使用は低容量ですでに多くの処方実績もあり、安全性の実績を重ねております。なお、ステロイドホルモンは、悪化因子と考えておりますので、アトピー性皮膚炎などでステロイドの処方を受けている方は要注意です。皮膚炎を併発している子は、その炎症がアレルギーによるものなのか、その他感染によるものなのかを、しっかり診断する必要があります。
去勢手術
未去勢の雄では、去勢手術により半数が改善すると言われています。しかし、折角去勢して反応があっても、そのまた半分は再発してしまうと言われます。当院では、雄だけでは無く雌も発症する事、治癒割合が悪い事、原因不明である事、体を活発に保つホルモンの一角を担う性ホルモンを欠落させる事は発毛代謝に影響があるという観点から初期の去勢手術を推奨していません。ただし、男性ホルモンを抑制するお薬にある程度の反応を示す事が報告され、興味深いものである事に変わりはありません。この辺りは、当院のオリジナル処方に反映させています。
メラトニン
メラトニンは睡眠リズムを適正化させるとして、時差ぼけや睡眠障害用のサプリメントとして米国等で販売されています。国内での発売は無く、獣医師が個人輸入で手に入れています。動物への効果としては、被毛の成長や生え変わりに関与しているのではないかと考えられています。原則副作用が無く、1日1回1〜2錠の投薬で良い事から一般的なファーストチョイスとされるお薬です。反応率は6割程度と言われますが、改善が認められていた子が継続していても再発率が高いです。
男性型脱毛症薬
ミノキシジルやフィナステリドといった海外で発売されている男性型脱毛症のお薬を使用することで、さらに発毛効果が高まることが報告されています。当院でも積極的に利用しておりますが、一部のお薬について、妊娠中の方や、妊娠を予定している方には、お取り扱いいただかないことを条件としております。現在既に処方を受けている方は、取り扱いについて獣医師とよくご相談ください。
当院での試み
原因もスタンダードな治療法も明確でないこのご病気、当院では数種のお薬を少量ずつ併用する処方を主にご案内しております。成長ホルモンの活性を促すお薬、甲状腺のお薬、男性ホルモンを抑制するお薬を始め、発毛に必要な微量元素、天然由来成分、ビタミン剤等をブレンドして処方いたします。もちろん食事の指導、皮膚の健康に必要な必須脂肪酸の補給もいたします。
処方を受けている方のお話では、発毛だけではなく活動的に、若返った等というコメントも頂戴しております。
メラトニンに反応のなかった方や、ある治療法で一度は良くなったが再び脱毛が始まってしまった方は、あきらめずにぜひご相談ください。もちろんまずはメラトニンだけから始めてみよう、副腎皮質機能亢進症のお薬のみを使いたいという方にも対応いたします。
当院処方開始の3ヶ月はあまり改善が見られません。初期治療の評価は3ヶ月以降に行います。早ければ3ヶ月後に反応が見られます。幸い完全に生え揃っても再発しやすいです。お薬は急に切らさず、とてもゆっくり減じていきます。
進行症例治療例
左が治療前、右が経過です。順調に見えても始めの3ヶ月は、基本的に改善ありません。4ヶ月頃より急速に発毛しだします。みんな本当に頑張ってくれました。